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令和7年12月19日に令和8年度税制改正大綱が発表されましたので、相続税と贈与税の論点を要約しつつ補足説明をしたいと思います。
今回の注目ポイントは、貸付用不動産及び不動産小口化商品について、市場価格と相続税評価額の乖離の実態を踏まえ、評価方法が変更される点となります。
また、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、令和5年度税制改正の際の「令和5年度税制改正の基本的考え方等」でも、「利用件数が減少している等で、次の期限到来時には、利用件数や利用実態等を踏まえ、制度のあり方について改めて検討する」とされていましたが、今回の令和8年度税制改正大綱で、延長せずに終了することとなりました。
被相続人等が相続開始前又は贈与前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、相続開始時又は贈与時における通常の取引価額に相当する金額によって評価することになりました。
この「通常の取引価格」とは、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動などを考慮し手計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価します。
この改正は令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用します。
ただし、この改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限ります。)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含みます。)には適用されません。
改正後の評価方法をまとめると下記となります。
| ①取得から5年以内 | 通常の取引価格に相当する金額(取得価額を基に80%) |
| ②取得から5年経過後 | 従来の評価方法のまま |
相続税の節税対策として収益物件の購入やアパート建築等をしている方も多かったと思いますが、今後は5年以内の直前対策は効果が低くなってしまいます。
ただし、取得から5年経過したものについては、従来の評価方法のままとなりますので、これからは早期に対策を実行する必要があります。
不動産小口化商品のうち、任意組合型・賃貸型又は信託受益権型の貸付用不動産については、その取得の時期にかかわらず、相続開始時又は贈与時における通常の取引価格に相当する金額によって評価することになりました。
※実務上、賃貸型はほとんどないと思いますので、基本的には任意組合型又は信託受益権型となります。
この「通常の取引価格」とは、課税上の弊害がない限り、次の①、②又は③に掲げる価格等を参酌して求めた金額によって表します。
①出資者等の求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格、買取価格等
②事業者等が把握している適正な売買実例価額
③定期報告書等に記載された不動産の価格等
ただし、上記①、②又は③に該当するものがないと認められる場合には、上記1. 貸付用不動産の評価方法の見直しについてに準じて評価します。
この改正は令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用します。
改正前と改正後の評価方法をまとめると下記となります。
| 改正前の相続税評価額 | 改正後の相続税評価額 |
| 土地 路線価評価 | 土地・建物ともに 「通常の取引価額に相当する金額」 |
不動産小口化商品のうち、任意組合型と信託受益権型は相続税評価額の圧縮効果が80%前後になるなど、非常に大きな節税効果がありました。
しかし、こちらの改正は取得時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額により評価されることになりますので、令和9年1月1日以後については、節税目的での購入はなくなると思われます。
ただし、不動産小口化商品は節税効果だけでなく、1口100万円又は1,000万円など少額単位での購入が可能であることから、遺産分割がしやすく、遺産分割対策としての利用は今後も可能です。
直系尊属から境域資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、適用期限が令和8年3月31日までとされていますが、延長せずに終了することとなります。
適用期限までに拠出された金銭等については、引き続き本措置が適用されます。
個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、個人事業承継計画の提出期限が令和8年3月31日まででしたが、2年6月延長されます。
非上場株式に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度について、特例承継計画の提出期限が令和8年3月31日まででしたが、1年6月延長されます。
医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等について、適用期限が令和8年12月31まででしたが、一定の措置を講じて3年延長されます。
農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の適用に係る農地等を収用交換等により譲渡した場合に利子税の全額を免除する措置の適用期限が5年延長されます。
今回の改正では貸付用不動産の評価方法と不動産小口化商品の評価方法の変更に最も注目されていました。
貸付用不動産については、5年以内の直前での節税対策は封じられましたが、5年経過後のものについては、従来の評価方法のままとなりますので、今後はより早く対策を実行する必要があります。
不動産小口化商品については、取得時期にかからわず完全に節税を封じられることになります。
すでに不動産小口化商品を購入している方については、適用開始となる令和9年1月1日までに生前贈与をするなどの回避方法が考えられますが、金額が億単位になるなど高額な場合には、財産評価基本通達6項による否認リスクもありますので、相続税専門の税理士に相談をすることをお勧めします。
収益物件の購入やアパート建築等の貸付用不動産や不動産小口化商品について相談したい方は一般社団法人相続財産再鑑定協会にご相談ください。理事長の佐藤和基は相続税専門の税理士ですので、相続に関する知識や実績が豊富です。