連年贈与と定期贈与の違いを解説|贈与税がかかるリスクに注意

 

1.連年贈与とは

連年贈与とは毎年贈与を行うことをいいます。
贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、毎年110万円以下の贈与を行う方も多いと思います。

贈与をする方の年齢や財産規模でもいくらの贈与をするのか検討する必要がありますが、手軽にできる節税方法になります。
ただし、手軽にできるために専門家に相談をせず思いがけないリスクを抱えている方も多くいますので、以下、定期贈与や注意点などについて解説します。

2.定期贈与とは

定期贈与とは毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことをいいます。
例えば、1,000万円を一括で贈与してしまうと、多額の贈与税がかかってしまうことから、100万円ずつに分けて10年間にわたって贈与するケースがあると思いますが、この場合は定期贈与になってしまいます。

定期贈与になってしまうと、年間の贈与金額が110万円以下であったとしても、定期贈与を行うことを決めた年に「定期金に関する権利」を贈与したものとして、贈与額の合計額に対して贈与税が課税されてしまいます。

なお、定期贈与に関するQ&Aが国税庁のタックスアンサーNo.4402「贈与税がかかる場合」に掲載されていますので、参考に掲載します。

【No.4402 贈与税がかかる場合】
毎年、基礎控除額以下の贈与を受けた場合

Q.親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の贈与財産の価額の合計額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。

A.定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の贈与財産の価額の合計額が110万円以下であれば、暦年課税に係る基礎控除額または相続時精算課税に係る基礎控除額以下であるため、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。

ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約(約束)をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。

 

3.連年贈与と定期贈与の違い

連年贈与と定期贈与は、一見すると毎年贈与をするという点で一致しており、同じようにも見えますが、下記の点で大きく異なります。

連年贈与 … たまたま毎年贈与を行っていた。

定期贈与 … 予め毎年贈与することが決まっていた。

4.定期贈与にならない生命保険の活用

生命保険会社の中には、生前贈与をするための商品を販売しているところがあります。
具体的には、生前贈与をするための保険商品は、保険料を一時払いして、その後選択した保険期間に渡って、毎年生存給付金の受取人に給付金が支給されるものがあります。
例えば、一時払い保険料を1,000万円、保険期間を10年にした場合には、毎年100万円の生存給付金が受取人に支払われます。※運用損益はないものとして計算しています。

一見すると定期贈与になってしまいそうですが、生存給付金の受取人は、保険期間の中途に契約者(贈与者)の意思で変更することが可能です。
そのため、下記の理由により定期贈与にはならないようです。
〇生存給付金受取人は、生存給付金の支払事由が発生するまでは生存給付金を受取る権利がない。(契約者の判断で生存給付金の受取人を変更できます。)
〇契約者(被保険者)が死亡した場合、契約は消滅し、死亡保険金受取人に死亡保険金が支払われる。

なお、贈与契約書についても下記の理由により、贈与契約書の作成は不要なようです。
※リスクが心配な方は、贈与契約書を作成しても良いと思います。
〇保険会社の発行する「お支払いの通知」が贈与契約書の代わりとなる。(形式面)
〇生存給付金を受け取る口座は受取人の管理している口座である必要がある。(実態面)

5.定期贈与と指摘をされないための注意点

生前贈与による節税を実行する場合には、定期贈与と指摘を受けないように、贈与をするたびに贈与契約書を作成しましょう。

定期贈与と指摘を受けないために、贈与する金額を変えたり、贈与の時期を変えることも有効です。
予め贈与をすることが決まっているケースで、毎年の贈与金額が異なっていたり、時期が異なるのは不自然ですので、定期贈与と指摘されない要素は多い方が良いと思います。
※贈与金額や贈与時期を変えるのは絶対条件ではありません。

6.税務調査の実態と余計な指摘を受けないための対策

税務調査では、毎年贈与があることを確認すると連年贈与と定期贈与のいずれの主張で指摘をするでしょうか?
答えはケースバイケースで、追徴課税をより多く取れる理屈で指摘をしてきます。

定期贈与であれば、多額の贈与になるため、大きく追徴課税をされてしまいますが、贈与税には除斥期間があり、6年間となっています。(隠ぺいや仮装行為があった場合は7年間)

そのため、除斥期間を経過している場合は、定期贈与と指摘しても税務署は追徴課税が取れなくなります。連年贈与の場合は、相続開始前7年以内の贈与は相続税の計算に合算することができるため、除斥期間を経過している場合には連年贈与と指摘をしてくるでしょう。
場合によっては贈与ではなく、貸付金のため、除斥期間は関係なく相続財産に計上する必要があると指摘をしてくるケースもあります。

つまり贈与の時期などに応じて、税務署は都合の良い解釈で指摘をしてきます。

余計な指摘を受けないためにも、贈与の都度贈与契約書を作成することで、定期贈与と指摘されるリスクを回避したり、貸付金と指摘されるリスクを回避することができます。
※貸付金の場合なども同様で、金銭消費貸借契約書を作成しておくことで、贈与と指摘されるリスクを回避することができます。

また、贈与契約書の作成(形式面)だけでなく、実態も伴う必要があります。
よくあるケースですと、贈与者が孫名義の口座を作成して、その口座に入金しているケースです。

この場合、孫名義の口座を孫自信が管理をして自由に使える状態で使用している場合には、贈与は成立していると判断できますが、贈与者が孫名義の口座を管理して、孫が自由に使えない状態の場合には、贈与は成立していないと指摘をされてしまいます。(名義預金として相続財産に計上が必要になります。)

税務署から余計な指摘を受けないためのポイントをまとめると下記となります。
〇贈与契約書を贈与の都度作成する。(形式面)
〇受贈者(贈与を受ける人)が管理使用している口座に振り込む。(実体面)

あとは贈与の要件ではありませんが、あえて110万円を超える贈与をして、贈与税の申告書を提出することで、税務署に贈与の記録を残したり、公証役場で確定日付を取ることで形式面の立証力を高くすることができます。

なお、受贈者が未成年者であるなど、口座を自由に使わせることが難しく実態面に不安がある場合には、貯蓄性の生命保険を活用するなどで、リスクを減らすことができます。

7.相続開始前7年以内の贈与は加算対象

相続開始前7年以内に贈与を行っていた場合には、その贈与額を相続財産に合算して相続税を計算することになります。
つまり、亡くなる前7年間の生前贈与は節税としては無効になってしまいます。

ただし、生前贈与加算の対象となる方は「相続又は遺贈により財産を取得した者」となります。
そのため、生前贈与加算の回避方法として、相続人ではない孫や子の配偶者に生前贈与することで、節税することができます。
※孫は代襲相続や遺言書により遺贈を受ける場合は、生前贈与加算の対象となります。

8.暦年贈与と相続時精算課税制度

贈与税には原則である暦年贈与と特例である相続時精算課税制度があります。
暦年贈与の場合には、1月1日から12月31日までの贈与について、110万円の基礎控除があります。
そして、上記7. 相続開始前7年以内の贈与は加算対象の説明の通り、相続開始前7年以内の贈与は生前贈与加算の対象となります。

相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫に対する贈与について、相続時精算課税制度を選択することで適用することができます。
相続時精算課税制度は、税務署に相続時精算課税制度選択届出書を提出することで適用できますが、一度適用すると撤回することはできません。

相続時精算課税制度の特徴は2,500万円の贈与までは贈与税がかかりませんが、相続時に贈与額(無制限)が加算されるため、節税には不向きな制度でした。
ただし、令和6年1月1日以降の贈与については、2,500万円の特別控除とは別途、年間110万円の基礎控除が設けられました。

そして、相続時精算課税制度の基礎控除110万円以下の贈与については、贈与税申告が不要で、かつ、相続時に合算する必要もありません。
※暦年課税の場合は、年間110万円以下の贈与でも相続開始前7年以内は相続財産に合算して相続税が課税されます。

つまり、相続時精算課税制度を適用した場合、年間110万円以下の贈与を行った場合は、相続時に合算する必要がないことから、節税として有効な制度となっています。
相続時精算課税制度の適用件数を増やすためのインセンティブとして、このような取扱いになったと思われます。

生前贈与と相続時精算課税制度について、詳しく知りたい方は以下の頁をご覧ください。

9.不動産小口化商品と生前贈与の組み合わせ

生前贈与は手軽にできる節税として有効ですが、年間110万円の基礎控除があるため、節税できる金額には限度があります。
より大きく節税をしたい方には不動産小口化商品と生前贈与の組み合わせも有効です。
不動産小口化商品は物件にもよりますが、購入した金額に対して、相続税評価額が20%から30%程度にまで下がります。
不動産小口化商品について詳しく知りたい方は以下の頁をご覧ください。

例えば、親から18歳以上の子に1,000万円を贈与した場合、贈与税は177万円になりますが、不動産小口化商品で仮に購入金額1,000万円で相続税評価額が200万円のものを贈与した場合、贈与税は9万円になります。
贈与税は累進課税のため、大きな金額を贈与すると贈与税負担も大きくなりますが、圧縮率の高い商品を活用することで、大きく節税することが可能です。

また、上記の例で仮に不動産小口化商品を生前贈与して、生前贈与加算の対象となってしまった場合、相続税の課税価格に加算する金額は、贈与時の価額となるため、1,000万円ではなく200万円の加算で済みます。

ただし、あからさまな節税目的で、親から子に不動産小口化商品を生前贈与した直後に子が売却をしてしまう場合などは、評価方法を路線価方式ではなく、たな卸し資産として評価されてしまうリスクも考えられます。

10.生前贈与に関する相談

連年贈与と定期贈与の違いや生前贈与等を活用した節税について相談したい方は一般社団法人相続財産再鑑定協会にご相談ください。理事長の佐藤和基は相続税専門の税理士ですので、相続に関する知識や実績が豊富です。
不動産小口化商品を活用した相続対策のご相談についても、不動産特定共同事業者(10社以上を比較してご案内)のご紹介が可能です。

また、納税者に損をさせない申告を信念に、これから相続税申告業務に参入される税理士向けに相続税実務研修(通信講座Web視聴)を販売しております。
【税理士事務所向け】相続税実務研修(Web配信)について詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

お問合せ・ご質問はこちら

お気軽にお問合せ・ご相談ください

03-6914-2640
受付時間
10:00~20:00(平日)
10:00~12:00(土日祝日)
定休日
無し

相続が学べるメルマガ

相続に関する情報を無料でお届けしております。登録は無料ですので相続について学びたい方はメールマガジンにご登録ください。

相続税の教科書(応用編)

  • 第1章.土地評価
  • 第2章.相続税還付
  • 第3章.生命保険
  • 第4章.相続手続
  • 第5章.生前対策
  • 第6章.山林等の処分
  • 第7章.相続の統計情報