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<目次>
1.相続人の範囲と順位
2.法定相続分
3.法定相続人の数と養子の人数制限
4.法定相続人の数が関係する規定
5.普通養子縁組と特別養子縁組
6.養子縁組による二重資格と相続分の判定
7.養子縁組を活用した節税
8.養子縁組の注意点
9.相続税申告や生前の節税対策に関する相談
相続人は民法第886条から第895条に定められており、相続人になる人は、亡くなった人との関係で決まります。
まず、配偶者はどのような場合でも常に相続人になります。
ただし、正式な婚姻関係にある必要があり、事実婚のパートナーや内縁の妻といった人は相続人にはなれません。
配偶者以外の相続人は民法で下記のように優先順位が定められています。
【第1順位】
子(養子や認知された子(非嫡出子)も含みます。)が相続人となります。
つまり、この場合は配偶者と子が相続人となり、配偶者がいなければ子だけが相続人になります。
子が亡くなっている場合には、その子(被相続人から見て孫)が代襲して相続人になり、この代襲相続は下へ何代でも続きます。
※代襲相続は被相続人の直系卑属である必要がありますので、養子の子が代襲相続できるケースは、その養子の子が養子縁組後に生まれた子である必要があります。養子縁組前に生まれた養子の子は、被相続人の直系卑属ではないため、代襲相続することはできません。
なお、子が相続欠格又は廃除によって相続権を失った時も孫が代襲して相続人となります。
※子が相続放棄をした時は、その子(被相続人から見て孫)は代襲相続人になりません。
<応用>
養子縁組前に生まれた養子の子は、基本的に養親の直系卑属ではないため、代襲相続することはできませんが、例えば、下記のようなケースでは実子側からみて直系卑属となるため、代襲相続人となることがあります。
例)実子である長女Aと夫Bの間に子Cがおり、子Cが生まれた後に夫Bが長女Aの親と養子縁組をしている場合で、夫Bが亡くなった後に親が亡くなった場合の相続人は誰になるでしょうか?
この場合、子Cは夫Bと親の養子縁組前に生まれているため、夫B側から見ると親の直系卑属ではありませんが、長女A側から見ると親の直系卑属(直系の孫)となります。
そのため、相続人は長女Aと代襲相続人である子Cになります。
つまり、養子縁組前に生まれた養子の子であっても、被相続人(養親)の直系卑属であれば代襲相続権があることになります。
こちらは平成元年8月10日大阪高等裁判所判決が参考になります。
【第2順位】
第1順位の人が誰もいない場合には、直系尊属が相続人となります。
※相続欠格又は廃除、相続放棄により第1順位の人が相続権を失っている場合にも第2順位の人が相続人となります。
直系尊属は父母で、父母がいなければ祖父母と上にさかのぼります。
なお、第1順位の直系卑属が代襲相続する場合とは異なり、父母の一方が亡くなっている場合はもう一方の親が相続人となり、亡くなっている親の親(被相続人から見て祖父母)は相続人とはなりません。
祖父母が相続人になるのは、父母の両親とも亡くなっている場合となります。
被相続人が養子の場合、直系尊属には、養親だけでなく実親も含まれますが、その養子縁組が特別養子縁組の場合には、実親が相続人となることはありません。
【第3順位】
第1順位及び第2順位のいずれの人もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。
亡くなった兄弟姉妹がいる場合、その子(被相続人から見て甥や姪)が代襲して相続人となりますが、兄弟姉妹の代襲相続は1代に限られています。
相続人が財産や債務を引き継ぐ時の割合を民法で定めています。
この割合を法定相続分といいます。
【配偶者と子が相続人である場合】
配偶者の相続分及び子の相続分はともに2分の1となります。
子が数人いるときは、それぞれの子の相続分は2分の1を均等したものとなります。
なお、嫡出子と非嫡出子がいる場合の取り扱いは、平成25年9月4日の最高裁判所判決により、民法が改正され、平成25年9月5日以後に開始した相続から、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等となりました。
※平成25年9月4日以前については、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1でした。
【配偶者と直系尊属が相続人である場合】
配偶者の相続分は3分の2となり、直系尊属の相続分は3分の1となります。
直系尊属が数人いるときは、それぞれの直系尊属の相続分は3分の1を均等したものとなります。
直系尊属には実父母、養父母の区別はありません。
※養子縁組が特別養子縁組の場合は実親との親子関係が終了するため、実親は相続人になりません。
【配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合】
配偶者の相続分は4分の3となり、兄弟姉妹の相続分は4分の1となります。
兄弟姉妹が数人いるときは、それぞれの兄弟姉妹の相続分は4分の1を均等したものとなります。
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)の相続分の2分の1となります。
【配偶者がいない場合】
相続人の順位が高いものが相続人となります。
第1順位の子、第1順位がいないときは第2順位の直系尊属、第1順位も第2順位もいないときは第3順位の兄弟姉妹になります。
相続人が数人いるときは、それぞれの相続分は均等になります。
ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)の相続分の2分の1となります。
相続税の計算では、法定相続人の数が関係してきます。
なお、相続税法上の法定相続人の数は、民法上の相続人の数と必ずしも一致していません。
例えば、相続放棄をした場合、相続人ではなくなりますが、相続税法上の法定相続人には相続放棄をした者がいる場合、その相続放棄がなかったものした場合における相続人が法定相続人となります。
例えば妻、子1人、父母がいる場合、相続放棄等がない場合には、相続人は妻と子の計2人となります。
しかし、例えば子が相続放棄をした場合、相続人は妻と父母の計3人になります。
この場合、相続税法上の法定相続人は、相続放棄がなかったものとした場合における相続人で判定を行うため、妻と子の2人が法定相続人となり、法定相続人の数も2人として計算を行います。
つまり民法上の相続人の数は3人ですが、相続税法上の法定相続人の数は2人となります。
また、養子縁組については法定相続人の数に算入する人数に制限があります。
養子は、養子縁組の時から嫡出子としての身分を取得し、民法上は、当然に相続人になります。
しかし、相続税法上は、養子を利用した租税回避行為を防止するため、被相続人に養子がある場合、法定相続人の数に算入する人数を以下のように制限しています。
①被相続人に実子がある場合又は被相続人に実子がなく、養子の数が1人である場合 … 1人
②被相続人に実子がなく、養子の数が2人以上である場合 … 2人
ただし、以下のようなケースは、もともと租税回避行為を目的とするものではないため、人数制限の対象とはならず、実子とみなされます。
①特別養子縁組による養子
②被相続人の配偶者の実子でその被相続人の養子となった者(いわゆる連れ子が養子となった場合)
③被相続人と配偶者との婚姻前に、その配偶者の特別養子となった者で、その婚姻後にその被相続人の養子となった者
④実子、養子又はその直系卑属が相続開始前に死亡し、又は相続権を失ったため、代襲相続により法定相続人となったその者の直系卑属
相続税の計算では、生命保険金等及び退職手当金等の非課税金額、相続税の基礎控除、相続税の総額の計算で、法定相続人の数が関係してきます。
各規定について、以下説明します。
【生命保険金等の非課税金額】
相続人が被相続人の死亡により取得した生命保険金等で、その保険料を被相続人が払っていた場合は、相続税の課税対象となりますが、生命保険金等には相続税の非課税枠があります。
生命保険金等の非課税金額は「500万円×法定相続人の数」で計算します。
※生命保険金等の非課税金額を適用できるのは相続人となります。そのため、相続放棄をした者や相続権を失った者は適用できません。
【退職手当金等の非課税金額】
相続人が被相続人の死亡により取得した退職手当金等は、相続税の課税対象となりますが、退職手当金等には相続税の非課税枠があります。
退職手当金等の非課税金額は「500万円×法定相続人の数」で計算します。
※退職手当金等の非課税金額を適用できるのは相続人となります。そのため、相続放棄をした者や相続権を失った者は適用できません。
【相続税の基礎控除】
相続税には基礎控除があり、相続財産が基礎控除額を下回る場合には、相続税は発生しません。
相続財産が基礎控除額を上回る場合には、その上回る金額に対して相続税が課税されます。
この相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
【相続税の総額】
相続財産が相続税の基礎控除額を上回る場合、その上回る金額を法定相続人の数に応じた相続人が民法の規定による法定相続分及び代襲相続分に応じて取得したものとした場合におけるその各取得金額につき、それぞれの金額に相続税の超過累進税率を適用して計算した金額を合計して相続税の総額を計算します。
そのため、法定相続人の数が多いほど、法定相続分等に応じて取得したものとした場合におけるその各取得金額が少なくなり、適用する超過累進税率の適用税率も低くなります。
相続人になる子には養子も含まれるため、養子縁組について説明します。
まず、養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組があります。
【普通養子縁組】
普通養子縁組は、いわゆる一般的な養子縁組のことであり、養親と養子の間に新たに親子関係が生じますが、実親との親子関係は消滅しません。
つまり養子に出したとはいえ、実親との間には依然として相続関係が存在します。
養子は養親が死亡した場合、実親が死亡した場合のいずれも法定相続人になります。
逆に子が先に死亡した場合にも養親、実親ともに法定相続人となり、法定相続分も均等になります。
また、兄弟姉妹が法定相続人となる場合でも、養子は実子と同じように法定相続人となり、また被相続人ともなります。
【特別養子縁組】
特別養子縁組は、実親と特別養子に出した子との親子関係が終了します。
つまり、法律上は他人と同様になるため、お互いに相続人になることはありません。
そして特別養子縁組によって養親になった者とは、実子と同様にお互いに相続人になることができます。
養子縁組による二重資格と相続分について、いくつかのパターンをご紹介します。
①孫養子の場合
孫を養子にした場合には、実子と同様に法定相続人となります。
では養子となっている孫の親(実子)が既に亡くなっている場合の相続分はどのようになるのでしょうか?
この場合には養子としての相続分と代襲相続人としての相続分を合わせることになります。
例)父が死亡し、相続人が長女A、長男B、長男の子で父の養子となった孫養子Cで、長男が既に亡くなっていた場合。(母はすでに他界)
相続人は長女Aと孫養子Cの2人になります。
孫養子Cは養子としての相続分3分の1と代襲相続人としての相続分3分の1を合わせた3分の1が相続分となり、長女Aの相続分は3分の1となります。
②婿養子の場合
子の配偶者を養子とした場合の相続分の取り扱いについて説明します。
例えば長女の婿を養子にしていて、子のいない長女が死亡した場合(両親も既に他界)、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
婿養子となっている夫は配偶者としての身分を有すると同時に、被相続人の兄弟姉妹としての身分も有しています。
そのため、相続人の二重資格を持つことになりますが、二重に相続分が認められるのでしょうか?
この場合には孫を養子にした場合のような血族関係の重複ではないため、配偶者としての相続分のみを認めて、兄弟姉妹としての相続分は認められません。
例)長女が死亡し、相続人が婿養子Aと二女Bの2人の場合。(両親は既に他界、子はなし)
婿養子Aは配偶者としての相続分4分の3、二女Bの相続分は4分の1となります。
③養子と実子が婚姻している場合の孫の代襲相続
養子と実子が婚姻している場合の代襲相続の二重資格について説明します。
養子と実子が婚姻して、その夫婦に子がいる場合の代襲相続の取り扱いですが、養子と実子が既に亡くなっていた場合に、2人分の代襲相続が認められるのでしょうか?
この場合には養子の子としての代襲相続と実子の子としての代襲相続の2人分の代襲相続が認められます。
例)婿養子と長女の間に子Aがいて、婿養子と長女が既に死亡している場合で、長男(長女の兄)が死亡し二女B(長女の妹)がいる場合。(両親は既に他界)
相続人は子Aと二女Bの2人になります。
子Aは養子の子としての代襲相続分3分の1、長女の子としての代襲相続分3分の1を合わせた3分の2が相続分となり、二女Bの相続分は3分の1となります。
④非嫡出子を養子にした場合
非嫡出子を養子にした場合の相続分の取り扱いについて説明します。
※非嫡出子とは、婚姻関係にない男女の間から生まれた子のことをいいます。
非嫡出子を養子にすることで嫡出子としての身分を得ることになります。
では非嫡出子を養子にした場合、嫡出子と非嫡出子の身分が同時に存在するのでしょうか?
この場合には嫡出子と非嫡出子の身分が同時に存在するのは不自然と考えられます。
したがって、非嫡出子の身分は消滅し、養子(嫡出子)としての相続分のみを取得することになります。
例)父が死亡し、相続人が長男Aと非嫡出子で養子となったBの2人の場合。(母は既に他界)
長男A、養子Bの相続分はともに2分の1ずつとなります。
養子縁組をすることで、法定相続人の数を増やすことができ、節税することができます。
法定相続人の数が増えることで有利になる規定は、生命保険金等の非課税金額、退職手当金等の非課税金額、相続税の基礎控除額、相続税の総額の計算(超過累進税率の適用税率の減少)があります。
具体的な例をご紹介します。
例)相続財産は預貯金8,000万円、生命保険金等1,000万円、退職手当金等1,000万円の合計1億円で、推定相続人が子1人の場合。
こちらのケースでは法定相続人の数は1人ですが、仮に養子縁組をした場合、法定相続人の数は実子と養子の計2人になります。
相続税の差について、養子縁組をしなかった場合と養子縁組をした場合で比較します。
【養子縁組をしなかった場合(法定相続人の数は実子の1人)】
①課税価格
預貯金8,000万円+生命保険金等1,000万円-非課税枠500万円×1人+退職手当金等1,000万円-非課税枠500万円×1人=9,000万円
②課税遺産総額
9,000万円-基礎控除額(3,000万円+600万円×1人)=5,400万円
③相続税の総額
5,400万円×30%-700万円=920万円
【養子縁組をした場合(法定相続人の数は実子と養子の計2人)】
①課税価格
預貯金8,000万円+生命保険金等1,000万円-非課税枠500万円×2人+退職手当金等1,000万円-非課税枠500万円×2人=8,000万円
②課税遺産総額
8,000万円-基礎控除額(3,000万円+600万円×2人)=3,800万円
③相続税の総額
法定相続分に応ずる取得金額
3,800万円×1/2=1,900万円
相続税の総額
(1,900万円×15%-50万円)×2=470万円
上記の計算の通り、養子縁組をしなかった場合の相続税は920万円ですが、養子縁組をして法定相続人の数が1人増えたことで、相続税が470万円に減っています。
差額の450万円が節税できたことになります。
養子縁組は上記7.養子縁組を活用した節税の通り、節税効果がありますが、注意点もありますので、ご紹介します。
【相続税の2割加算】
養子縁組をすることで、養子は養親の嫡出子としての身分を得るため、実子と同様に相続人となりますが、孫を養子にした場合には、祖父母から孫が財産を直接相続することで、相続税の課税の機会を1回免れることができてしまいます。
そのため、税負担の調整を図るため、孫養子は相続税の2割加算の対象となっています。
ただし、孫養子でも子(孫の親)が亡くなっていて代襲相続する場合は相続税の2割加算の対象とはなりません。
【生前贈与加算】
相続開始前7年以内の贈与については、生前贈与加算の対象となり、相続税の計算上、合算する必要があります。
なお、生前贈与加算の対象となる者は、「相続又は遺贈により財産を取得した人」となりますので、孫は代襲相続をするか遺贈(遺言書で財産を取得)により財産を取得しない限りは生前贈与加算の対象とはなりません。
しかし、孫を養子縁組して相続人となることで、孫が財産を相続し生前贈与加算の対象にもなってきます。
生前贈与を活用して節税をしている場合には、安易に孫を養子にすることで、逆に税負担が大きくなってしまう可能性もあるため、注意が必要です。
【租税回避行為の否認規定】
相続税法第63条により、養子の数を法定相続人の数に算入することが、租税回避行為になると認められる場合には、養子の数を法定相続人の数に算入しないように否認をすることができます。
平成29年1月31日の最高裁判決では、節税目的の養子縁組でも、養子縁組は無効にはならないと判断されていますが、あくまでも養子縁組の有効性についての判断であり、節税目的の養子縁組を認める趣旨ではありませんので、その点は注意が必要です。
例えば法定相続人の数を増やすためだけに養子縁組を活用し、養子が財産を全く相続しないなど、あからさまな節税目的の場合には、民法上の養子縁組は有効と判断されるかもしれませんが、相続税の節税(法定相続人の数の増加)は否認されるリスクも考えられます。
相続税申告や生前の節税対策について相談したい方は一般社団法人相続財産再鑑定協会にご相談ください。理事長の佐藤和基は相続税専門の税理士ですので、相続に関する知識や実績が豊富です。
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