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がけ地を有する宅地とは、平坦地とがけ地等で通常の用途に使うことができない部分(傾斜部分、法面部分)が一体となっている宅地をいいます。
このようながけ地のある宅地は、採光、通風、眺望及び隣棟感覚の保持等により平坦地部分への効用増に寄与するプラスの面がありますが、がけ地部分を通常の用途に使うことができませんから、がけ地のない宅地と比較すると一定の減価があると考えられます。
また、同じ条件のがけ地であっても斜面方向によって、日照、通風等が異なり、減価要因にも大きく左右されます。
こちらのページでは、がけ地の定義、がけ地の評価方法及び他の評価方法との併用の可否について解説します。
財産評価基本通達では、がけ地等の明確な定義はされていせん。
一般的ながけ地等とは、斜面の角度が30度以上の急傾斜、法面のことをいいます。
そのまま傾斜30度以上をがけ地と定義できるわけではありませんが、一つの目安になると思います。
がけ地の評価方法は、がけ地でないとした場合の評価額にがけ地補正率を乗じて評価します。
がけ地補正率は、がけ地部分の方位(東西南北)とがけ地の占める面積割合に応じたがけ地補正率を使います。
【算式】
がけ地でない場合の評価額×がけ地補正率
がけ地の方位 がけ地地積÷総地積 | 南 | 東 | 西 | 北 |
0.10以上 | 0.96 | 0.95 | 0.94 | 0.93 |
0.20以上 | 0.92 | 0.91 | 0.90 | 0.88 |
0.30以上 | 0.88 | 0.87 | 0.86 | 0.83 |
0.40以上 | 0.85 | 0.84 | 0.82 | 0.78 |
0.50以上 | 0.82 | 0.81 | 0.78 | 0.73 |
0.60以上 | 0.79 | 0.77 | 0.74 | 0.68 |
0.70以上 | 0.76 | 0.74 | 0.70 | 0.63 |
0.80以上 | 0.73 | 0.70 | 0.66 | 0.58 |
0.90以上 | 0.70 | 0.65 | 0.60 | 0.53 |
がけ地補正率は方位によって使用する補正率が異なりますが、必ずしも1方向に向いているとは限らず、南東など中間方向に向いている場合や、東と南など二方向にがけ地がある場合があります。
中間方向に向いている場合や二方向にがけ地がある場合の評価方法は下記となります。
【中間方向に向いているがけ地】
がけ地が中間方向に向いている場合には、それぞれの方位のがけ地補正率を平均して求めます。
例えばがけ地の占める割合が10%以上の北東の場合は、北の補正率が0.93、東の補正率が0.95になるため、平均すると0.94になります。
なお、北北東のような場合には北のみの方位として評価することができます。
【二方向にがけ地がある場合】
二方向にがけ地がある場合のがけ地補正率は、各方位別のがけ地の地積を加重平均して計算します。
まずは①評価対象地の総地積のうちにがけ地全体の地積の占める割合を計算し、その割合に応じる各方位別のがけ地補正率を求めます。
②次にそれぞれのがけ地の地積に、それぞれのがけ地の補正率を乗じて合計します。
③その合計をがけ地の全体地積で除した割合をがけ地補正率とします。
計算例は下記となます。
【計算例】
評価地積の全体地積が100㎡、東斜面20㎡、南斜面30㎡(つまり100㎡の土地のうち平坦地は50㎡、がけ地は50㎡)の場合。
①20㎡+30㎡/100㎡=0.50(がけ地の占める割合)
②20㎡×0.81+30㎡0.82=40.80
③40.80/(20㎡+30㎡)=0.816→0.81(小数点第二位切捨て)
がけ地評価のがけ地補正率は、路線価区域にある宅地の評価に適用されます。
そのため、宅地以外の地目についてはがけ地補正率を適用できません。
一方で、宅地造成費控除は宅地比準方式により市街地農地や市街地山林、雑種地等を評価する場合に通常の宅地と比較して減額するものです。
したがって、がけ地補正率と宅地造成費控除は適用する地目が異なり重複適用することはできません。
がけ地補正率を適用して評価する宅地は、平坦地とがけ地が一体となっている宅地の場合です。
そのため、平坦地(宅地)とがけ地の利用状況や地目が異なり、別々に評価する場合には、平坦地の宅地にはがけ地が含まれないことになるため、がけ地補正率を適用して評価減することはできません。
また、がけ地部分は地目が山林等になると思います。
こちらは地目が宅地ではないため、がけ地補正率を適用して評価することはできません。
ただし、山林等の場合には宅地造成費控除ができます。
30度以上の急傾斜の場合には、宅地転用が見込めないため純山林評価で大きく評価額が下がります。
土砂災害特別警戒区域内にあるがけ地の評価方法は、特別警戒区域補正率にがけ地補正率を乗じて得た数値を特別警戒区域補正率として評価します。(補正率の最小値は0.50になります。)
特別警戒区域補正率は下記となります。
特別警戒区域の地積÷総地積 | 補正率 |
0.10以上 | 0.90 |
0.40以上 | 0.80 |
0.70以上 | 0.70 |
国税庁ホームページのタックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」では、「道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの」について、10%の評価減を認めています。
※高低差のある土地の相続税評価について詳しく知りたい方は「高低差のある土地の相続税評価額を減額する方法」をご覧ください。
そのため、がけ地補正と利用価値が著しく低下している10%の評価減を重複適用できるのか検討の余地がありそうです。
まずは旧来の取扱いをまとめます。
旧来(概ね平成3年まで)は、下記のように取り扱われていたようです。
①30度以上の急傾斜については一般にがけ地としてがけ地補正率を適用して評価減を行っていた。
②上記①以外の傾斜地については、昭和55年6月24日付東京国税局長通達「個別事情のある財産の評価等の具体的な取扱いについて」(以下「昭和55年東京国税局長通達」といいます。)の2-(8)イ「著しく傾斜している宅地(がけ地として評価することが適当であると認められるものを除く)の取扱いにおいて、10%の減額が認められていた。
③昭和55年東京国税局長通達の2-(8)ロ「道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比して著しく高低差のあるもの」の取扱いにおいて、10%の減額が認められていた。
④昭和55年東京国税局長通達では2以上の事情により、利用価値が著しく低下していると認められる宅地にあっては、10%ではなく20%の減額が認められていた。
つまり、旧来の取扱いでは②の著しく傾斜している宅地はがけ地を除いていることから、①がけ地と②著しく傾斜している宅地を二重に評価減することはできないことが明らかですが、②著しく傾斜している宅地と③著しく高低差のある宅地を二重に評価減することは、④の2以上の事情により、利用価値が著しく低下していると認められることで20%の減額ができたことになります。
上記の旧来の取扱いは廃止され、現在は存在しないものの昭和55年東京国税局長通達の基本的な考え方は、タックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」に、その内容を修正しながら引き継がれていると考えられます。
タックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」では、2以上の項目に該当する場合に20%の減額ができるか記載がありませんが、国税不服審判所(平成13年6月15日裁決)では、20%の減額が認められています。
以上の点から旧来の考え方では、がけ地補正と利用価値が著しく低下している10%の評価減を重複適用可能と判断できる余地はありそうです。
一方で、がけ地補正は平坦地に比べてがけ地部分の利用ができないことによる補正であり、高低差の影響も宅地全体ではなくがけ地部分に限定されている場合は、どちらの減額も同じ「がけ地」部分であり、二重に減額することになることから否認されるリスクも考えられます。
なお、高低差のある部分ががけ地のみではなく、宅地全体が道路と高低差がある場合は、がけ地補正と高低差による10%の評価減を重複適用しても異なる論点での減額と主張できると思います。
まとめると下記のようになると思います。
〇道路と平坦地に高低差がなくがけ地部分のみに高低差がある 重複適用はリスクが高い
〇道路と平坦地に高低差があり、がけ地もある 重複適用を検討しても良い
明確な基準がありませんので、個々で判断をすることになります。
タックスアンサーNo.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」について、詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
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がけ地等を有する宅地の評価根拠は財産評価基本通達20-5となります。