タワーマンション節税改正|6割評価の回避方法の解説

タワーマンションを利用した節税は以前から問題となっており、平成29年度税制改正では、タワーマンションの固定資産税について改正がありましたが、相続税評価額については改正がありませんでした。
令和5年度税制改正大綱においても、タワーマンション節税の改正はありませんでしたが、「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」と記載されていました。

「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」は令和5年1月31日に第1回目の発表があり、令和5年6月2日に第2回目の発表、令和5年6月30日に第3回目の発表がありました。
令和5年7月21日から同年8月20日までの意見公募を経て、国税庁から「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」が公表されました。
この通達は、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価について適用されます。
ここでは、「居住用の区分所有財産の評価について」の内容についてまとめます。

1.従来のマンションの相続税評価の方法と問題

【従来の相続税評価の方法】
従来のマンションの評価方法(自用)は、①区分所有建物の価額+②敷地(敷地利用権)の価額となっていました。
①区分所有建物の価額
建物の固定資産税評価額×1.0

②敷地(敷地利用権)の価額
敷地全体の価額(路線価方式又は倍率方式)×共有持分(敷地権割合)

【従来の評価方法の問題】

従来のマンションの評価方法では、市場価格と乖離しており、主な要因としては下記のことが考えられます。
①区分所有建物の価額
建物の評価額は、再建築価格をベースに算定されていますが、市場価格はそれに加えて建物の「総階数」、マンション一室の「所在階」も考慮されているほか、評価額への「築年数」の反映が不十分だと、評価額が市場価格と比べて低くなるケースがあります。
つまり建物の効用の反映が不十分となっています。

②敷地(敷地利用権)の価額
マンション一室の敷地利用権の価額は、平米単価に共有持分で按分した面積を乗じて評価されますが、この面積は高層マンションほどより細分化され狭小となるため、このように敷地持分が狭小なケースは立地条件の良好な場所でも、評価額が市場価格と比べて低くなります。
つまり狭小で評価され、立地条件の反映が不十分となっています。

市場価格と相続税評価額の乖離の事例として下記のものがあります。
※令和5年1月31日発表の第1回「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」より抜粋。

  所在地 総階数 所在階数 築年数 専有面積 市場価格 相続税評価額 乖離率
東京都 43階 23階 9年 67.17㎡ 11,900万円 3,720万円 3.20倍
福岡県 9階 9階 22年 78.20㎡ 3,500万円 1,483万円 2.36倍
広島県 10階 8階 6年 71.59㎡ 2,240万円 954万円 2.34倍

 

2.最高裁判決における財産評価基本通達6項の適用事例

マンションの評価方法を巡っては、令和4年4月19日に「路線価に基づく相続財産の評価は不適切である」という判決が最高裁判所第三小法廷で下されています。
概要としては、マンション2棟を約13億8,700万円で購入し、路線価に基づき約3億3,000万円で評価して申告をしています。
これに対し、評価通達6項を適用して不動産鑑定評価額である約12億7,300万円で更正処分を受け納税者が敗訴した事例です。
この判例では、乖離率が約3.8倍、乖離額が約9億4,300万円となっています。
令和4年4月19日の最高裁判決について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。

近年の財産評価基本通達6項の適用件数をまとめると下記の通りとなります。

年分 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 R1 R2 R3
件数 0 1 0 2 0 4 0 1 1 0 9

財産評価基本通達6項の適用件数は、年間平均が約1件と非常に限られていますが、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離は、予言可能性の観点からも評価方法の見直しにより是正することが適当と議論されています。

3.評価方法の改正内容

相続税評価額が市場価格と乖離する要因となっている「築年数」、「総階数」、「所在階」、「敷地持分狭小度」の4つの指数に基づいて、評価額を補正する方向で通達の整備を行いました。
具体的には、これら4指数に基づき統計的手法により乖離率を予測し、その結果、評価額が市場価格理論値の60%に達しない場合には、60%に達するまで評価額を補正するというものです。
概要をまとめると下記の通りとなります。
①相続税評価額が市場価格理論値の60%未満となっているもの(乖離率1.67倍を超えるもの)について、市場価格理論値の60%になるよう評価額を補正する。
②評価水準60%~100%は補正しない。
③評価水準100%超のものは100%となるよう評価額を減額する。

相続税評価の改正内容

【算式】
従来の相続税評価額×当該マンション一室の評価乖離率×最低評価水準0.6(定数)

※評価乖離率が約1.67以下となるマンション一室は「現行の相続税評価額×1.0」とする。
 評価乖離率が1.0未満となるマンション一室の評価額は最低評価水準0.6を乗じない。
 つまり「従来の相続税評価額×当該マンション一室の評価乖離率」とする。

評価乖離率は、下記の算式で計算します。

【算式】
評価乖離率=A+B+C+D+3.220

A=一棟の区分所有建物の築年数※×△0.033
  ※建築の時から課税時期までの期間(1年未満の端数は1年)
B=一棟の区分所有建物の総階数指数※×0.239(小数点以下第4位切捨て)
  ※総階数(地階を含まない)を33で除した値(小数点以下第4位切捨て、1を超える場合は1)
C=一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階※×0.018
  ※専有部分がその一棟の区分所有建物の複数階にまたがる場合(いわゆるメゾネットタイプの場合)に  は、階数が低い方の階
D=一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度※×△1.195(小数点以下第4位切上げ)
  ※敷地持分狭小度(小数点以下第4位切上げ)=敷地利用権の面積÷専有部分の面積(床面積)
敷地利用権の面積は、次の区分に応じた面積です。(小数点以下第3位切上げ)
①一棟の区分所有建物に係る敷地利用権が敷地権である場合
 一棟の区分所有建物の敷地の面積×敷地権の割合
②上記①以外の場合
 一棟の区分所有建物の敷地の面積×敷地の共有持分の割合

マンション一室とは、構造上、居住用に供することができるものに限られ、区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンションなど)、総階数2階以下の低層のもの、いわゆる二世帯住宅等は含まれません。

令和6年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得した財産へ適用されます。

4.評価方法の改正による影響の比較

マンションの評価方法が改正されたことによるデメリットとメリットをまとめます。

【デメリット】
デメリットとしては、節税効果が低くなる点となります。
従来のマンション評価方法では、評価の乖離率が平均で2.34倍になるようですが、市場価格の6割水準の評価に改正されたことで乖離率が1.67倍にまで下がります。
仮に市場価格10億円のタワーマンションで現行の乖離率が2.34倍の場合、改正前と改正後では下記のように評価額に差が出ることになります。

現行の相続税評価額 約4億2,700万円
改正案の相続税評価額 約6億円
改正による評価差額 約1億7,300万円

【メリット】
メリットとしては、財産評価基本通達6項による否認リスクが低くなる点になると思います。
従来の評価方法では、市場価格との乖離を認識していても、基本的には財産評価基本通達に基づき評価をするしかなく、リスクを負いながら申告せざるを得ない部分もありました。
※理論上は不動産鑑定評価により申告する方法も可能ですが、納税者が自ら評価額が2倍から3倍になる不利な方法に鑑定費用を負担することは、現実的ではありませんでした。
評価方法の改正により、財産評価基本通達6項による否認リスクがゼロになるとは言えないものの、かなりリスクは低くなったと思います。

5.今後の節税対策(6割評価の回避方法)

マンションの評価方法が改正され、今までのように大きく節税することできなくなりますが、市場価格の60%水準での評価になるため、改正後でも40%は評価額を減らすことができます。
また、改正の対象となるマンションは、その対象となる不動産の流通性や価格形成要因の点で分譲マンションに類似するものに限定すべきとの見解があったようです。
そのため、二世帯住宅や低層の集合住宅、事業用のテナント物件などは市場も異なり売買実例に乏しいことから対象外となりました。

そのため、今回の改正の影響を受けない一棟所有のものや事業用のテナント物件などは従来通りの評価方法となります。(財産評価基本通達6項の否認リスクは考慮する必要があります)

今後の節税対策としては、下記でご紹介する不動産小口化商品の活用などが考えられます。

6.不動産小口化商品の活用

従来のタワーマンションの節税と同様に大きな圧縮効果のある節税方法としては不動産小口化商品の活用が考えられます。
従来のタワーマンションと比較すると、金額も少額であることから否認リスクも低く、1棟所有の物件や事業用のテナント物件などは上記のタワーマンションの評価方法の改正の対象外となっています。

不動産小口化商品は、特定の不動産を1口100万円など、小口化して販売する商品で、賃料収入等を所有口数に応じて出資者に分配する商品です。

不動産小口化商品の相続税評価額の圧縮率は80%程度になるケースが多く、単体でも大きな節税効果がありますが、生前贈与と組合せることで、さらに大きく節税することも可能です。
不動産小口化商品の相続税評価額の圧縮率が80%の場合で、生前贈与と組合せた場合の節税金額を計算します。
なお、贈与税の税率は、直系尊属から18歳以上の者への贈与の場合とそれ以外の場合で異なるため、ここでは、直系尊属から18歳以上の者への贈与(つまり親から子に対する贈与や親から孫に対する贈与)と仮定して計算します。
【不動産小口化商品の圧縮率が80%の場合の贈与税】

  現金贈与 不動産小口化商品 節税金額
500万円贈与 485,000円 0円 485,000円
1,000万円贈与 1,770,000円 90,000円 1,680,000円
1,500万円贈与 3,660,000円 190,000円 3,470,000円
2,000万円贈与 5,855,000円 335,000円 5,520,000円
2,500万円贈与 8,105,000円 485,000円 7,620,000円
3,000万円贈与 10,355,000円 680,000円 9,675,000円

上記の表の通りですが、500万円を現金で贈与する場合は、贈与税の負担は485,000円となりますが、不動産小口化商品を購入して贈与する場合は、相続税評価額が100万円になることから、贈与税の基礎控除額110万円を下回ることになり贈与税負担はゼロになります。

金額が大きくなるほど贈与税の負担も大きくなるため、多額の贈与をする時は、不動産小口化商品を活用するメリットも大きくなります。

不動産小口化商品について詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

7.タワーマンション節税や不動産小口化商品の相談

タワーマンション節税や不動産小口化商品の活用について相談したい方は一般社団法人相続財産再鑑定協会にご相談ください。理事長の佐藤和基は相続税専門の税理士ですので、相続に関する知識や実績が豊富です。タワーマンションや不動産小口化商品を活用した相続対策のご相談については、不動産会社のご紹介が可能です。タワーマンション節税以外についても、相続に関する相談をお受けしています。

また、納税者に損をさせない申告を信念に、これから相続税申告業務に参入される税理士向けに相続税実務研修(通信講座Web視聴)を販売しております。
【税理士事務所向け】相続税実務研修(Web配信)について詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

お問合せ・ご質問はこちら

お気軽にお問合せ・ご相談ください

03-6914-2640
受付時間
10:00~20:00(平日)
10:00~12:00(土日祝日)
定休日
無し

相続が学べるメルマガ

相続に関する情報を無料でお届けしております。登録は無料ですので相続について学びたい方はメールマガジンにご登録ください。

相続のノウハウ

  • 第1章.土地評価
  • 第2章.相続税還付
  • 第3章.生命保険
  • 第4章.相続手続・節税
  • 第5章.山林等の処分
  • 第6章.相続の統計情報