生前贈与加算の改正相続時精算課税制度で加算を回避

 

1.生前贈与加算の改正の趣旨

令和41216日に令和5年度税制改正大綱が決定し、相続税の分野では生前贈与加算の加算期間の延長が最も注目を浴びていると思います。

こちらの改正は以前から加算期間が延長されるなど、節税が封じられるのではないかと議論されており、前年の令和4年度税制改正大綱の中でも、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、本格的な検討を進めるとの記載がありました。

今回の改正は、格差の固定化防止など資産家の節税を封じる狙いがあっての改正だと思われます。

2.生前贈与加算の内容と改正ポイント

従来の生前贈与加算については、相続等で財産を取得した者が、その相続の開始前3年以内に亡くなった方から贈与を受けていた場合には、その贈与により取得した財産を相続税の計算上、合算する制度となっていました。
今回の改正では、相続の開始前3年以内の部分が、相続の開始前7年以内に加算期間が延長されました。

例えば、相続等で取得する財産が5,000万円(つまり亡くなった時点での財産です。)で、生前は毎年110万円の贈与を10年間受けていたとします。
従来であれば、110万円×3年の330万円を加算するため、相続税は5,330万円が課税対象となっていました。改正後は7年に増えるため、110万円×7年の770万円が加算されます。
ただし、7年間の加算のうち、3年超7年以内の4年間に贈与したものについては、100万円を控除することになるため、相続税の課税対象は下記のように計算されます。
5,000万円+110万円×7年-100万円=5,670万円
※この加算不要の100万円は「贈与者ごと」の贈与財産の価額から控除します。
 例えば加算期間が延長される4年間に贈与者Aと贈与者Bから贈与を受けていた場合、相続財産への加算額はいずれも100万円控除します。

なお、加算期間の延長は令和6年1月1日以後の贈与から適用されるため、その後の相続については、令和5年12月31日以前の贈与は3年以内のものを加算し、令和6年1月1日以後の贈与は7年以内のものを加算します。
例えば、毎年贈与を行っていて、令和9年7月1日に相続が発生したとします。
この場合、令和5年12月31日以前に贈与を受けたものは3年を過ぎているため、加算対象になりません。
令和6年1月1日以後に贈与を受けたものは7年以内になるため、加算対象となります。(3年6カ月分が加算されることになります。)
つまり、上記の例からもわかるように相続開始前7年以内のものが、7年分加算されるようになるのは、改正から7年経過した令和13年1月1日以降の相続からとなります。

次に贈与税と相続税の二重課税の問題ですが、贈与税には毎年110万円までの基礎控除があります。
そのため、110万円以下の贈与であれば贈与税はかかりませんが、110万円を超える場合には、贈与税が課税されます。
生前贈与加算で相続税に合算されたものについて、贈与税が課税されている場合には、相続税との二重課税の問題が発生するため、相続税から生前贈与加算にかかる贈与税を控除します。

改正のポイントをまとめると下記の通りとなります。
〇加算期間が3年以内から7年以内に延長
〇加算期間が3年超から7年以内のものについては100万円を控除
〇令和6年1月1日以後の贈与から適用

3.相続時精算課税制度の改正ポイント

今回の改正では、生前贈与加算の加算期間の延長だけではなく、相続時精算課税制度についても見直しがありました。
改正前の通常の贈与(暦年贈与)との違いを比較すると下記の通りです。
〇暦年贈与(原則)=年間110万円の基礎控除、3年内の贈与は相続時に加算
〇相続時精算課税制度(特例)=年間110万円の基礎控除はなし、代わりに2,500万円の特別控除あり、年数に限りなく相続時に全て加算

つまり相続時精算課税制度は、基礎控除がなくなる代わりに2,500万円までの贈与については、贈与税は課税されなくなります。
例えば、1,000万円を贈与した場合、翌年以降は残りの1,500万円までは贈与税は課税されません。
ただし、相続時には相続時精算課税制度で贈与したものを全て合算するため、基本的には相続税の節税にはならない制度でした。
※評価額が上がるものは贈与時の評価額で合算されるため、その差額の分の節税効果はありました。また、賃貸物件のように収益が発生するものについても、受贈者が受け取るためその分も節税効果はありましたが、逆に評価額が下がってしまう場合は負担増のため、節税目的としては不向きな制度でした。
今回の改正では、相続時精算課税制度にも毎年110万円の基礎控除が控除できるようになりました。
この改正は、令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。

4.今後の生前贈与の活用のポイント

生前贈与加算の加算期間が延長されたことから、生前贈与による節税効果が薄くなってしまいますが、対策の仕方はいくつかあります。

例えば、孫や子の配偶者など相続で財産を取得しない人に対して生前贈与をすることです。
生前贈与加算の対象者は、相続又は遺贈により財産を取得した人となります。
つまり相続人が相続で財産を取得するか、遺言書によって財産を取得する場合です。
そのため、孫でも親(被相続人から見た子)が先に亡くなっている場合に、代襲相続で財産を取得する場合や遺言書で財産の遺贈を受ける場合は生前贈与加算の対象となってしまいますが、相続時に財産を取得しない孫の場合は、生前贈与加算の対象から外れます。

今後の生前贈与による節税では、子よりも孫や子の配偶者など財産を相続しない人達への贈与が増えると思われます。

5.相続時精算課税制度を活用した節税

相続時精算課税制度を活用して生前贈与加算の対象から外す方法も検討の余地があります。

従来の相続時精算課税制度は、過去の贈与全てを相続時に合算することから節税には向かない特例でしたが、今回の改正で追加された基礎控除110万円については、相続時に合算されないことになっています。
※原則の暦年課税については、基礎控除110万円以下でも合算されます。

相続時精算課税制度を利用させるためのインセンティブとして差が設けられているのだと思いますが、余命が短いなど通常の生前贈与では7年以内の加算に引っかかってしまう場合は、相続時精算課税制度の活用を検討しても良いと思います。

また、相続時精算課税制度の基礎控除110万円は、暦年課税の基礎控除110万円とは別枠となります。

つまり、例えば父親からの贈与について相続時精算課税制度を利用して、母親からの贈与は暦年課税の場合、毎年、父から110万円まで無税で贈与を受けることができ、母からの贈与も暦年課税で110万円まで無税で贈与を受けることができます。

なお、両親双方から相続時精算課税を利用して贈与を受けていた場合には、110万円の基礎控除の計算は、それぞれの贈与額に応じて按分することになります。

例えば、父から300万円、母から200万円の贈与をうけた場合、父からの贈与については110万円×300万円÷(300万円+200万円)=66万円、母からの贈与については110万円×200万円÷(300万円+200万円)=44万円までは課税されないことになります。

相続時精算課税制度は、改正により節税にも活用できる制度になりましたが、一度選択をすると暦年課税には戻すことができないなどのデメリットもありますので、専門家に相談をしてから判断することをお勧めします。

6.不動産小口化商品と生前贈与の組み合わせ

生前贈与加算の加算期間の延長に対する対策として、不動産小口化商品と生前贈与の組み合わせも有効です。
不動産小口化商品は物件にもよりますが、購入した金額に対して、相続税評価額が20%から30%程度にまで下がります。
不動産小口化商品について詳しく知りたい方は以下の頁をご覧ください。

例えば、親から18歳以上の子に1,000万円を贈与した場合、贈与税は177万円になりますが、不動産小口化商品で仮に購入金額1,000万円で相続税評価額が200万円のものを贈与した場合、贈与税は9万円になります。
贈与税は累進課税のため、大きな金額を贈与すると贈与税負担も大きくなりますが、圧縮率の高い商品を活用することで、大きく節税することが可能です。

また、上記の例で仮に不動産小口化商品を生前贈与して、生前贈与加算の対象となってしまった場合、相続税の課税価格に加算する金額は、贈与時の価額となるため、1,000万円ではなく200万円の加算で済みます。

ただし、あからさまな節税目的で、親から子に不動産小口化商品を生前贈与した直後に子が売却をしてしまう場合などは、評価方法を路線価方式ではなく、たな卸し資産として評価されてしまうリスクも考えられます。

7.生前贈与の注意点

生前贈与は、税務調査の際に指摘を受けやすい論点の1つになっています。

親族間では贈与契約書を作成しておらず、贈与の立証が難しくなっていたり、親が子の名義で口座を作って管理をしているケースも多く、否認されるケースが多くなっています。

例えば、子名義の口座で通帳の履歴が入金のみで出金がない場合は、子が自由に使える状態ではなく、贈与は成立していないのではないか?実質は親が管理している名義預金ではないか?と指摘されてしまいます。

せっかくの節税対策も否認されては意味がありませんので、余計な指摘を受けないためにも下記の点に注意する必要があります。
〇贈与契約書を贈与の都度、作成する。
〇贈与は受贈者(もらう人)が普段使っている口座に振り込む。

あとは贈与の要件ではありませんが、あえて110万円を超える贈与をして贈与税の申告書を提出することで、立証力を高めることもできます。

8.専門家への相談

生前贈与や相続時精算課税制度について相談したい方は一般社団法人相続財産再鑑定協会にご相談ください。理事長の佐藤和基は相続税専門の税理士ですので、相続に関する知識や実績が豊富です。
不動産小口化商品を活用した相続対策のご相談についても、不動産特定共同事業者のご紹介が可能です。

また、納税者に損をさせない申告を信念に、これから相続税申告業務に参入される税理士向けに相続税実務研修(通信講座Web視聴)を販売しております。
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