<目次>
1.土地の相続税評価額
2.路線価の定義
3.建築基準法上の道路ではないところに路線価が設定されている場合
4.相続税還付の相談
5.路線価の根拠
土地の相続税評価額は、地域によって「路線価方式」と「倍率方式」の2種類に分かれています。
路線価方式は、路線価の定められている地域の土地の相続税評価の方法となります。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことです。
そのため、路線価方式の場合の評価は路線価にその土地の面積を乗じて計算を行いますが、その際に土地の奥行距離や間口距離、形(不整形地か否か)などに応じた各種補正率を乗じて評価します。
倍率方式とは、路線価が定められていない地域の土地の相続税評価の方法となります。倍率方式の場合は、その土地の固定資産税評価額に倍率表の倍率を乗じて評価します。
そのため、倍率方式の場合の評価は固定資産税評価額に倍率を乗じて評価しますので、評価方法は路線価方式と比較するとシンプルになります。
※場合によっては一定の減額をできるケースもあります。
路線価や倍率表は国税庁ホームページの財産評価基準書を閲覧して確認できます。
基本的には国税庁が公表している路線価や倍率表は正しいと思いますが、中には路線価が誤っているケースもありますので、以下、路線価について説明します。
路線価の定義は財産評価基本通達14(路線価)に定められていますので、一部抜粋します。
【財産評価基本通達14の一部抜粋】
「路線価」は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。以下同じ。)ごとに設定する。
特に重要な要件はカッコ書きの「不特定多数の者の通行の用に供されている道路」となります。
不特定多数の者の通行の用に供されている道路とは、分かりやすくいうと、色んな人が通る道路のことです。
公道などは色んな人が通るため、不特定多数の者の通行の用に供されている道路に該当します。
逆に不特定多数の者の通行の用に供されている道路ではないものは何なのか?
一般的なものだと行き止まり私道になります。
行き止まり私道はその周りの家に住んでいる人達しか使わない道路になるため、専門用語では「特定の者の通行の用に供されている道路」といいます。
私道でも次のようなものは「不特定多数の者の通行の用に供されている道路」に該当しますが、それ以外のものは「特定の者の通行の用に供されている道路」に該当することになるのです。
① 公道から公道へ通り抜けできる私道
② 行き止まりの私道であるが、その私道を通行して不特定多数の者が地域等の集会所、地域センター及び公園などの公共施設や商店街等へ出入りしている場合などにおけるその私道
③ 私道の一部に公共バスの転回場や停留所が設けられており、不特定多数の者が利用している場合などのその私道
道路は下記の2種類に分けられることはご理解いただけたと思います。
① 不特定多数の者の通行の用に供されている道路
② 特定の者の通行の用に供されている道路
路線価の要件は「不特定多数の者の通行の用に供されている道路」となりますので、「特定の者の通行の用に供されている道路」には路線価を設定してはいけないことになります。
以上の点を理解した上で路線価を見てみると、行き止まり私道に路線価が設定されているケースがあることに気付くことがあります。
例えば評価対象地に接道している道路が正面の公道と側面の行き止まり私道の二方向だったとします。
正しく路線価が設定されていれば、公道のみの路線価一方のみに接している土地として評価をすることになります。
しかし、誤って行き止まり私道にも路線価が設定されている場合には、正面の公道と側面の行き止まり私道の二方に接している道路として、側方路線影響加算をしなければならなくなってしまいますが、そもそも路線価が誤っているのであれば、側方路線影響加算をする必要はないでしょう。
ただし、路線価が設定されているにもかかわらず、補足説明もつけずに側方路線影響加算をしない(路線価を無視)で評価した場合には、税務署から指摘される可能性が高いでしょう。
行き止まり私道の路線価を使わないで評価するのであれば、①路線価の定義、②不特定多数の者の通行の用に供されている道路の定義、③行き止まり私道が特定の者の通行の用に供されている道路に該当する旨の説明をまとめて補足資料として提出するか、事前に税務署に相談すると良いでしょう。
税務署の職員でも基本的には路線価の定義をきちんと把握していません。
そのため、税務署に相談する場合には単純に「路線価が間違っていませんか?」と質問しても、「路線価は正しいです」という回答になってしまいます。
路線価の誤りを認めてもらうためには、財産評価基本通達14を提示しながら、不特定多数の者の通行の用に供されている道路が要件になっている点、不特定多数の者の通行の用に供されている道路とは何なのか?そして、評価対象地に接道する道路が路線価の定義に該当しない理由を順に説明して、反論の余地をなくした上で認めてもらう必要があるでしょう。
他の一般的な論点と比較すると、路線価の誤りを認めてもらうのには労力を使います。
路線価方式の土地を評価していると、建築基準法上の道路ではないところに路線価が設定されていることがあります。
はたして、建築基準法上の道路ではないところに路線価を設定することは適正なのか、以下検討してみたいと思います。
まず、財産評価基本通達14の路線価の定義では、建築基準法上の道路であることは要件として明記されていません。
不特定多数の者の通行の用に供されている道路であることしか要件として明記されていないのです。
つまり、下記のような事実は路線価の設定にあたって考慮する必要はないと解釈することができます。
〇公道であるか私道であるかの区分
〇道路法上の道路か否かの区分
〇建築基準法上の道路であるか否かの区分
しかしながら、納得できない点がいくつかあります。
まず1つ目は、路線価方式の大前提として、「宅地」の評価を想定していることです。
参考に財産評価基本通達13(路線価方式)を要約して抜粋します。
【財産評価基本通達13の要約】
路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、一定の定めにより計算した金額によって評価する方式をいう。
「その宅地の面する」と定められていることからも「宅地」の評価を前提にしていることは明らかです。
ここで問題となるのは「宅地」の定義ですが、不動産登記事務取扱手続準則第68条3号によると下記のように定められています。
【不動産登記事務取扱手続準則第68条3号】
建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地。
つまり、建物が建てられる土地になります。
建物を建てられる土地(宅地)の評価を想定している路線価のはずなのに、建物を建てられない道路(建築基準法上の道路ではない)に設定できてしまうのは、合理的ではないと思われます。
2つ目は、特定路線価の設定には建築基準法上の道路であることが要件となっている点です。
財産評価基本通達上では明記されていませんが、国税局が公表している「特定路線価設定申出書の提出チェックシート」では建築基準法上の道路であることが要件となっています。
特定路線価は建築基準法上の道路であることが要件とされているのに、路線価では建築基準法上の道路であることが要件とされていない相違点に合理性があるのか疑問です。
以上のことから、建築基準法上の道路ではないところに路線価は設定すべきではないと思われますが、財産評価基本通達上で明記されていない以上、それだけで路線価が誤っているとまでは主張できないでしょう。
そのため、建築基準法上の道路ではないところに路線価が設定されていた場合には、個々の土地で判断するしかないと思われます。
例えば、建築基準法上の道路ではないところに設定された路線価を周りの路線価と比較してどの程度の差があるのか?
つまり、建築基準法上の道路ではないという点を考慮して低く設定されているのか、それとも特に考慮されずに建築基準法上の道路と同程度の価額になっているのか検討します。
路線価に、建築基準法上の道路ではない点が考慮されていない場合には、何かしらの評価減をするべきです。
例えば、利用価値が著しく低下している宅地として10%の減額、不動産鑑定評価をするなどが考えられます。
また、二方以上の路線に接しているのであれば、建築基準法上の道路ではない路線価について、側方路線影響加算、二方路線影響加算を除外して評価するなども考えられると思います。
路線価について、路線価が誤っているなどで高い評価で相続税の申告をしてしまっている場合でも、亡くなってから5年10ヶ月以内であれば申告内容を修正することが可能です。払い過ぎていた分は税務署に返金してもらうことができます。
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路線価の根拠は財産評価基本通達14となります。