相続税の障害者控除|要件と計算方法について詳しく解説

相続税にはさまざまな税額控除があります。
その税額控除の中には障害者控除があります。
相続税の障害者控除は、相続人が85歳未満の障害者に該当する場合には、相続税の額から一定の控除額を差し引くことができる制度になります。
こちらのページでは、障害者控除の適用要件や計算方法、注意点について、具体例を交えてわかりやすく解説します。

1.障害者控除とは

相続税の障害者控除とは、障害のある相続人がいる場合に、相続税の計算上一定額を控除できる制度です。これは、被相続人の死後に残された障害者の生活支援や福祉を考慮し、税負担を軽減する目的で設けられた制度です。

障害者控除の金額は85歳に達するまでの年数に応じて、1年当たりのの控除額は、一般障害者については1年につき10万円、特別障害者については1年につき20万円となっています。
そのため、障害者に該当する場合でも85歳以上の場合には、控除額はゼロになります。

2.障害者控除の要件

障害者控除を適用できる者の要件

相続税の障害者控除を受けるためには、相続又は遺贈により財産を取得した者で、下記に掲げるすべての要件を満たす必要があります。

〇相続又は遺贈により財産を取得した時に、国内に住所があること
※基本的には居住無制限納税義務者が該当しますが、制限納税義務者(国外居住者)であっても、アメリカ合衆国に居住している場合には、日米相続税条約により障害者控除が適用できる場合があります。

〇法定相続人に該当すること(相続放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)

〇相続開始時において障害者であること

障害者とは

障害者は一般障害者か特別障害者かで控除額が異なりますので、どちらに該当するか確認が必要です。

一般障害者は、精神障害者保健福祉手帳に2級又は3級と記載されている人や身体障害者手帳に3~6級と記載されている人などになります。

特別障害者は、精神障害者保健福祉手帳に1級と記載されている人や身体障害者手帳に1級又は2級と記載されている人などになります。
なお、成年被後見人は特別障害者に該当します。

一般障害者と特別障害者のより詳しい区分は国税庁のHPをご覧ください。

相続税申告書の添付書類

相続税申告において、障害者控除を適用する場合には、下記の書類を添付する必要があります。
〇相続税の申告書第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」
〇障害者手帳のコピー等
※障害者手帳の申請中に相続が発生した場合には、医師の診断書を添付します。

3.障害者控除の計算方法

障害者控除の金額は、障害者である相続人の年齢と障害の程度(一般障害者又は特別障害者)によって異なります。ここでは、計算式とともに、具体的なケースを用いて詳しく解説します。

障害者控除の金額は、以下の計算式で計算されます。
なお、年齢の1年未満は切り捨てます。

一般障害者の場合
(85歳-相続開始時の年齢)× 10万円

特別障害者の場合
(85歳-相続開始時の年齢)× 20万円

具体例① 一般障害者の場合
相続人の年齢:60歳11か月
区分:一般障害者

計算式
 (85歳-60歳)× 10万円
 → 25年 × 10万円 = 250万円
この場合、相続税の算出税額から250万円を控除することができます。

具体例② 特別障害者の場合
相続人の年齢:40歳2か月
区分:特別障害者

計算式
 (85歳-40歳)× 20万円
 → 45年 × 20万円 = 900万円
特別障害者の場合は控除額が2倍になるため、相続税を大幅に軽減できます。

注意点① 控除額は相続税額が上限
障害者控除の金額が大きく、相続の算出税額が控除額より小さい場合は、税額がゼロなり還付になることはありません。

注意点② 控除しきれない場合の扶養義務者からの控除
上記注意点①のように障害者控除を適用しても控除しきれなかった控除額がある場合には、障害者の扶養義務者の相続税額から控除します。
なお、ここでいう扶養義務者は実際に扶養義務をしている必要はなく、下記に該当する者は扶養義務者に該当します。
・配偶者
・直系血族
・兄弟姉妹
・家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族
・三親等内の親族で生計を一にする者

注意点③扶養義務者が2人以上いる場合のそれぞれの控除額
上記注意点②の控除しきれない場合の扶養義務者からの控除について、扶養義務者が2人以上いる場合、それぞれの扶養義務者の相続税額からの控除は、次のいずれの方法でも可能です。
・扶養義務者の協議により、控除する金額を定めて申告書に記載した場合は、その記載した金額
・扶養義務者の相続税額に応じてあん分した金額

4.障害者控除を適用する際の注意点|申告ミスを防ぐポイント

相続税の障害者控除は、比較的シンプルな制度ですが、適用にはいくつかの注意点や落とし穴があります。
ここでは、障害者控除を正しく活用するために押さえておくべき実務上の注意点を解説します。

①相続又は遺贈による取得が必要

障害者控除の要件として、相続又は遺贈により財産を取得している必要があります。
つまり、財産を一切取得しない場合には、障害者控除を適用する余地がなく、この場合には当然に控除不足額が生じるという概念もなくなるため、その者の扶養義務者の相続税額から障害者控除額を控除することは認められません。

そのため、遺言書を作成する場合などは、障害者の取り分をゼロにしないように注意が必要です。
なかには財産管理のために障害者ではない子にすべての財産を相続させて、障害者である子の面倒を見るようにと遺言書を作成している方がいますが、障害者である方の取り分がゼロになっているために、障害者控除が適用できないというケースがありました。

遺言書を作成する場合には、障害者の方の取り分がゼロにならないように注意が必要です。

なお、遺言書がない場合には遺産分割の要件はありませんので、未分割の場合でも障害者控除を適用することができます。

 

②算出相続税額がゼロでも扶養義務者から控除できる場合

障害者が相続又は遺贈により財産を取得していない場合には、算出相続税額も発生せずに障害者控除の適用ができないことは、上記1.相続又は遺贈による取得が必要で説明した通りです。

ただし、算出相続税額が発生しない場合でも相続又は遺贈により財産を取得していれば、その者に係る障害者控除額を、その者の扶養義務者の相続税額から控除不足額を控除することができます。

例えば、配偶者が障害者に該当し、配偶者軽減を適用することで、配偶者の相続税額がゼロになるようなケースが該当します。

このようなケースでは、配偶者から控除する障害者控除額はゼロですが、控除不足額としてその配偶者の扶養義務者の相続税額から控除することができます。

③障害者の孫に遺贈する場合は注意

障害者控除は法定相続人に適用されます。
そのため、法定相続人に該当しない孫に財産を遺贈する場合には、障害者であっても障害者控除を適用することができません。
遺言書で孫に財産を遺贈する場合には、障害者控除は適用できませんので、その点は注意が必要です。

ただし、孫を養子にすることで法定相続人に該当し、障害者控除の適用要件を満たすことは可能です。
また、孫であっても子(孫の親)が先に亡くなっていて、代襲相続をする場合も法定相続人に該当するため、障害者控除を適用することができます。

④納税がゼロの場合は申告不要

障害者控除を適用することで納税がゼロになる場合には、相続税の申告は不要となります。
ただし、小規模宅地等の特例や配偶者軽減を適用する場合には、納税がゼロになる場合でも申告要件があるため、申告書の提出が必要になります。

なお、障害者控除には当初申告要件がありませんので、当初は納税がゼロと判断をして申告をしておらず、後日、他にも財産があることが判明して期限後申告をする場合でも障害者控除を適用することができます。
同様に修正申告や更正の請求でも適用できます。

⑤過去に適用を受けている場合は注意

過去に障害者控除を適用している場合には、2回目の相続税申告では適用できる障害者控除の金額に制限があります。
具体的には下記のうち、いずれか少ない方の金額となります。

・(85歳-2回目の相続開始時の障害者の年齢)×10万円※

・(85歳-1回目の相続開始時の障害者の年齢)×10万円※-1回目の控除額
※特別障害者の場合には20万円

なお、1回目の相続と2回目の相続で障害の程度に変化があるケースもあります。

例えば1回目は一般障害者に該当し、2回目は特別障害者に該当する場合です。
そのような場合には、下記のうち、いずれか少ない方の金額になります。

・(85歳-2回目の相続開始時の障害者の年齢)×20万円

・(85歳-2回目の相続開始時の障害者の年齢)×20万円+(1回目の相続から2回目の相続までの期間に相当する年数※)×10万円-1回目の相続の時に控除を受けた障害者控除額
※1年未満の端数は切り上げとなります。

⑥相続放棄をしていても法定相続人のため適用可能

障害者控除は相続又は遺贈により財産を取得した法定相続人に適用されます。
そのため、相続放棄をした場合でも法定相続人に該当し障害者控除を適用できるケースがあります。
※法定相続人は相続放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人のことをいいます。
つまり、相続放棄をした場合には、相続人には該当しませんが、法定相続人には該当します。

通常は相続放棄をした場合は、財産を取得しないため、障害者控除は適用できないケースも多いですが、死亡保険金等がある場合には、相続放棄をしていても死亡保険金等を受け取ることができます。

死亡保険金等は民法上の相続財産には該当しませんが、相続税法上はみなし相続財産として相続により取得したものとみなされます。
そのため、相続放棄をしていてもみなし相続財産を取得している場合には、障害者控除を適用することができます。

5.障害者控除及び相続税申告の専門家への相談

障害者控除や相続税申告について相談したい方は一般社団法人相続財産再鑑定協会にご相談ください。理事長の佐藤和基は相続税専門の税理士ですので、相続に関する知識や実績が豊富です。

また、納税者に損をさせない申告を信念に、これから相続税申告業務に参入される税理士向けに相続税実務研修(通信講座Web視聴)を販売しております。
【税理士事務所向け】相続税実務研修(Web配信)について詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。

お問合せ・ご質問はこちら

お気軽にお問合せ・ご相談ください

03-6914-2640
受付時間
10:00~20:00(平日)
10:00~12:00(土日祝日)
定休日
無し

相続税の教科書(応用編)

  • 第1章.土地評価
  • 第2章.相続税還付
  • 第3章.生命保険
  • 第4章.相続手続
  • 第5章.生前対策
  • 第6章.相続と相続税
  • 第7章.山林等の処分
  • 第8章.不動産売却
  • 第9章.相続の統計情報
パソコン|モバイル
ページトップに戻る